There will be blood
この作品を構成している3つのシステム。
ビジネスシステム、家族システム、宗教システム。
これらのシステムを相互に噛み合わせることで、この作品に鮮明な奥行きと緊張感を生み出している。特に「宗教システム」を構成要素に加えているところが秀逸である。これがなければ、凡百のウェルメイドな作品に過ぎなかったであろう。
そして、この3つのシステムによる構造の中心に据えられているのが、一人の男の「憎悪の蓄積」である。
憎悪は蓄積する。
このメッセージは重い。人は必ずしも幸せになるために生きるのではない。憎悪を「証明」するために生きる人間もいる。そしてそれは、決して珍しいことではない。
長さを感じさせない秀作。一つ不満なのが、最終的に主人公を、狂気に沈めることで物語を決着させたことだ。この決着は、凡庸だ。これだけの優れた素材を集めた作品なら、もっと大きな話が描けたはずだ。どうせなら例えば、彼の興したビジネスが現在に至るまで成長し続け、国を代表する企業として繁栄し、かつ社会貢献などを通じて極めて高いブランドイメージを誇っている、というような物語が欲しかった。しかしこの作品は、ありふれた教訓を決着として選ぶことで、せっかくの素材を無害化してしまったように思う。
憎悪・不信・強欲は必ず破綻する、などという「道徳話」は巷にあふれている。しかし私たちが本当に見据えなければならないのは、一皮むけば「憎悪・不信・強欲の膨大な蓄積」であるものが、美しい理念をまとって社会の中で堂々たる地位を占めている現実ではないだろうか。私はそれを、必ずしも忌むべきことだとは感じない。ただ、それが現実なのだろうと思うだけだ。
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