力という概念

力とは、F=ma という式からも分かるとおり、「変化」の別名である。
変化によって力が定義されるのであり、変化の原因が力なのではない。
力は常に、事後的に見いだされるのである。
私たちはただただ、無節操に、無秩序に繰り広げられる日々の雑事を眺めながら、そこに「力」を見いだす。そして、その所有者を同定する。
力の所有者という仮構。
しかし裏返せば、この仮構は、変化という事実から見いだされたものである。
変化が事実である以上、仮構を仮構として片付けたからといって、そこから逃れることはできない。
ナイフの所有者が誰であろうが、それを突き刺した者が誰であろうが、刺された者が死んだという事実は打ち消せない。
そして、一人の人間の死から、殺人という「力」が発見される。